今回は “高機能” “アスペルガー”タイプのお子さんの学習を考察します。
“高機能自閉症”というのは正式な診断名ではありませんが、広く使用されてきた通称です。近年の基準では、“知的能力の明らかな遅れがない自閉症スペクトラム”を指します。
IQは70くらい~140くらいと幅広いのが実際ですが、下記のように誤解されていることもあるようです。
誤 高い知能をもつ
正 知的発達に明らかな遅れがない
「知的発達」の遅れは少ないものの、「言葉の発達・理解」には遅れや認知の困難を抱えていますので、結果として学習面にも課題が生じることがあります。
また、「社会性の課題」「限定的反復的な行動」といったASD特性の強い方の中には、知的発達とのアンバランスさ故に、学校・社会生活への困難さを一層感じてしまう場合も少なくありません。
社会的なサポートは以前より充実してきましたが、 将来の選択肢を広げ 人生を豊かに楽しく過ごすためには、本人のスキルアップが欠かせません。
民間療育センター勤務時代より指導してきたお子さん Eくんのケースを、事例として取り上げます。
≪出会い≫
・小1の時に初来所
・支援学級に在籍
会話にはさほど困らないものの、コミュニケーションや体の動きに 少々ぎこちなさを感じました。
いつも穏やかで冷静なご両親の「将来に向けた療育課題を知りたい」という強い想いは、その後ずっと絶やされることはありませんでした。
≪課題≫
学力面では大きな困り感がないものの、偏りのある独りよがりな物の見方をしてしまうことが問題でした。
① 時間(〇時までに~を終わらせたい)、人や場所(級友とは学校でしか会いたくない)等の「こだわり思考」が非常に強く、ちょっとした外出や生活の変化を楽しめない。
② 全身や手先の不器用さ&注視の困難さから、生活マナーの向上に苦戦する。(例:箸使いの改善→→ 他者の手元を参照できない・自分の指先に置き換えられない)
≪大きな目標≫
★体を意図的に動かす
(正しい運動出力のため、相手に合わせて動くため)
★生活パターンを変えてみる
(時間帯や場所の変化に慣れるため)
★学習を継続する
(言葉を社会的に使えるようにするため)
始めの数カ月は「うっ!こんな難しいことボクには無理だ~」と、座卓の下に避難訓練よろしく隠れようとする日もありました。
しかし、スモールステップの積み重ねにより、課題に向かう力・考える力を発揮できるようになっていきました。
3つの★を軸に 家庭で取り組んでいた様々な宿題です↓↓
・家族と毎日ラジオ体操をする
・ボール投げ、自転車の練習をする
・できる家事を少しずつ増やす
・苦手なキノコを「ちょっと食べられる」自信をつける
・編集者(妹)の意見を聞きながら漫画を描く
・概念学習、相手に合わせた会話

小学2年生の頃に取り組んでいた「気持ちの言葉」学習です。
○○な気持ちになるのは どんな時? と考えていきます。
自分の感情に気づくことの難しさはもちろん、
楽しい・嬉しい・面白い/嫌だ・つまらない・しんどい 等の言葉を使い分けるには高度な気づきが必要です。
本人の生活に照らし合わせ、「この時はこんな気持ちじゃない?」と教えられ、型で覚えることから始めるお子さんもいます。
自分の気持ちをある程度説明できるようになったら、次は相手の立場・感情を推測する課題に取り組んでいきます。
SSTとして会話練習・ロールプレイをされる方も、このような書き出し学習をぜひお勧めします。お子さんの認知がぐっと深まりますし、指導する側も、何がわかっていて何が難しいのか?的確に把握してあげられます。

高学年になると、このような課題に入ります。
一つの単元はレッスン5~6回かけて学び、単元二つを同時並行で行っていました。Eくんのレッスンは週1回でしたので、一カ月半くらいで 学習単元が変わっていく感じですね。
いわゆる【問題解決学習】ですが、彼の場合は、解答することよりも、頭をひねってじっくり考えること、丁寧に答えること、の方が重要な療育課題でした。
プリント学習だけに留まらず、生活の中の不測事態を家族が用意し、イライラせず パニクらず考える練習もしていました。
人生には「分からないし もういいや」「難しいからやめちゃえ」と、投げ出すことのできない物事があります。(一人で抱え続けるのも良くないですが…)
えっ、どうしたらいいの!
マジで無理じゃね?!
となった時、学習を通して培った 考えて行動する力で乗り越えていけると信じています。
~脳の力を最大限に引き出す~
知らない事・気づかなかった事・考えてもみなかった方法…子どもの力を可能な限り発揮させてあげることが、療育指導には不可欠です。
それこそが発達の可能性を広げる、コロロメソッドの真髄だと思っています。


なんでわざわざこんな事を、と思われましたよね。重箱の隅…的こまかい学習です。
何気なく見聞きしている物事についても「どんな言葉を使ったら相手に伝わる?」と考え直すこと、「え!僕だけそう思っていたの?」と気づき修正していくことにより、他者と共有できる概念を育てていきます。
教材は事前にある程度用意しますが、その時の生徒の様子よって即座に作り替えます!考える力を目一杯引き出してあげることが大切だからです。というわけで…走り書きをご容赦ください(言い訳)。
さて、Eくんは小学校を支援学級ですごした後、中学校に進学する際には一般学級を選択します。
この後の進路・療育課題について、次回のブログに書きたいと思います。
GWですね。
お休みの方も、お忙しい方も、素敵な時間を過ごせますように(*^-^*)